[章]

そう考えればルビィの言動にも合点がいく。
「いや、僕はやっぱり父さんのことは嫌いだよ」
 と、心でぼやきつつ僕を気にかけてくれるルビィの言葉が嬉しい。まるで自分が入院しているかのようにグチやわがままをたくさん書き込んだはずなのに、イーハトーブの二人は約束通りそんな話しを聞いてくれた。確かに大変な日々だけど僕の気持ちを理解してくれる人がいる。そう感じられるだけで毎朝重い玄関のドアを開けることができるんだ。
 父さんが退院したのは三月で、倒れた日から一ヶ月ほどの入院だった。その間に心電図をとっても心臓の異常は見つからず、脳波もずっと正常とのこと。問題のリハビリについては自立歩行はもちろん、かろうじて読める程度だけど右手で文字を書けるまで回復している。何より頭の方はほぼ正常で、考えが瞬時に言葉にならないタイムラグを除けば思考も発症前となんら遜色がない。
「多少考えが低下した方が少しは人のいうことを聞くようになるのに……」という母さんの冗談にも意地悪そうに笑い返すほどだ。
 退院後のリハビリについては担当医が僕たちの家から近いリハビリセンターを紹介してくれた。

しかし父さんはそういった施設にいくことを拒み、なんと素人の僕にリハビリを頼みたいといい出した。あの性格からして老人たちに紛れてリハビリすることへのプライドが許さなかったのだろう。確かに身勝手な要求だが心のどこかでこの予想を立てていた僕は、今まで病院でやってきた運動訓練のメニューのすべてをメモしていた。
ルビィ『ひぇ~ わがままパパだぁ~』
ハルト『まあ考えようによっては、毎日リハビリセンターへ送り迎えする手間は省けるよ』
 それに無理に通所させたところで少し動けるようになればいかなくなる可能性も高い。途中で止めてしまっては十分回復するものもそうはいかない。もう一ついえることは、リハビリを僕がすれば父さんにかなりの恩義を与えることになるだろう。わがまま対策。そう考えれば多少の手間は仕方がないのだ。今は我慢、それだけだ。
テーゼ『本当に考えようだね。じゃあハルトに良いHPを紹介するよ』
 テーゼが教えてくれたのは家庭でできる効果的なリハビリ法を紹介するホームページだった。