[章]

ハルト『今のところストレスを与えているだけみたいけどね、お互いに・・・はぁ~』
 父さんと仲直りをしてから一ヶ月。はじめはお互いに気を遣い不自然だった接し方も今ではすっかりわだかまりが消えていた。かといってこの人に対する根本的な憎しみがあんな程度の和解で解消することはない。この先も心底にある遺恨をごまかしながら適度な父子関係を演じていくのだろう。
ハルト『でも旅行の資料はすごいんだよ。ノートやアルバムの数が半端じゃないんだ。サービスエリアなんかでもらえる地図もたくさんあってそこに載っている主要道路のほとんどはマジックで塗られてあった』
ルビィ『その塗ってある道は自分の車で走ったってこと?』
ハルト『そうみたい』
テーゼ『本当に几帳面な人だ。そうしますと広島の地図にも線が引いてあるのかな?』
ハルト『うん山陽自動車道を中心にかなりの道が黒く塗られていたよ』

 運転をやめるといった日からいつのまにかイーハトーブのチャットには父さんの話題が復活し、気がつくと僕は二人に乗せられてそんな自慢話をしていた。最近まで自慢どころかあの人の話などする気にもならなかったのに。
ルビィ『じゃあ山梨にも線はある?』
ハルト『もちろん、あのあたりは夏場や紅葉を見によくいっていたらしいね』
 父さんが使っていた地図は主に全国版のロードマップと、高速道路のサービスエリアでもらえる「SA・PAのごあんない」という一枚物だった。カーナビの普及が目覚ましいこの時代に紙の地図をここまで使い込むドライバーは他にいるのだろうか。
 二十枚ほどある無料の地図は切り離れないように折り目の端をセロテープで補強され、広げてみると二人に説明したように国道や県道のほとんどが黒マジックでなぞられている。その軌跡が全国に行き渡っているのだ。