約二週間後に行われる地区の運動会は僕がまだ小学生の頃からずっと続けられている年中行事だ。この日と神社祭りはベッドタウンとして近代化が進むこの地域でも、昔からの住人たちによって一丸となって盛り上がるという。
運動会は各地域で中学生と二十歳以上の住民からそれぞれ選手を選び、二十ほどの競技を一日かけて行う。地区内を五チームに分けて総合得点を争うこの大会は毎年多くの住民が楽しみにしているらしく、各チームも練習には余念がないようだ。実際にその日の一ヶ月ほど前から僕が通うコンビニへの道中でもトレーニングする人が増えるほどである。
全競技中、とくに最後に控えている年代別リレーはチームの中でも選りすぐりの健脚、スポーツマンが壮絶な争いをすることで有名だ。そのレースに勝った選手たちはその後一年間みんなに慕われるというからその影響力はただならぬものがある。もちろん僕はそんなリレーに出たいと思うはずもない。何でもいいといわれて選んだ種目は当たり障りのない借り物競走だった。
借り物競走とは『スタートしてグラウンド中央にあるテーブルから一枚のカードを選び、そこに書かれた品物を自チームのテントから借り、再びスタート地点のゴールへ戻ってくる』というもの。
内容はいたってシンプルだが走る距離は結構ある。それでも僕にとってチームプレイでないことがこの競技を選ぶ決め手となった。
しかし社会人になってから今まで運動らしいことは一切していない。中学こそ陸上部で短距離を走り、大会にだって出場したこともあった。もしあのまま高校でも走り続けていたらそこそこの成績を残せていたかもしれない。
僕は父さんとの旅行から帰った翌晩からジョギングをはじめた。今さらトレーニングしたところでたった二週間ではどうなるものでもないだろうが、まともに競技ができるくらいの体力は戻したい。とりあえず毎晩通っている家から二キロほどのコンビニまで走ってみた。
すっかり馴染んだ道だったので走ることぐらい何でもなかった。と、いいたいところだが、自分の体力がこれほど衰えているとは信じ難い。なにしろ二百メートルも走るとあごと息が見事に上がるのだ。中腰のまま膝に手をついて呼吸する仕草は端から見ればいかにもわざとらしく見えるだろう。しかしこれが僕の現状だ。手入れを怠った身体はいとも簡単に衰えてしまうものだ。
ルビィ『それで 三日目の今夜はどうだったの?しっかり完走できた?』