[章]

 この日の空は一面ライトブルーが染み渡り、目を閉じれば美ヶ原高原で聞いたアモーレの鐘が今にも鳴り響きそうだ。しかし美ヶ原で感じた爽快さはこの僕にはなく、朝からずっと胃のあたりに鈍痛を感じる。三日前から生活リズムをもとに戻して体調を整えてきたがさすがに昨夜の寝付きは悪かった。だがもう睡眠不足を気にしてはいられない。大げさかもしれないが、今日はあらゆる意味で自分が試される日なのだ。
 僕の競技は午後からなのでそれまでに会場へいけばいい。午前中いつものコンビニ・コースを走って身体をほぐしてみる。たった二週間だけだが筋トレの成果もあり、体力や足の運びは思いのほかいい状態に整えることができた。持久力だけじゃなく瞬間のダッシュだって下半身はちゃんとついてくる。借り物競走だけに使うのはもったいないほどの仕上がりだ。
 一キロほど離れた運動会会場のスポーツ広場からは歓声やマイクアナウンス、スターターの放つピストルの音などで静かな町をにぎわせている。きっと会場は大勢の人であふれていることだろう。そう考えるだけで「グンッ」と胸が高鳴り、その感触をかき消すように床屋へいったばかりの前髪をかき上げた。

 両親は朝から紅葉を見るといい静岡あたりではまだ見頃ではないのを承知で車に乗り込んでいった。二人は運動会に来てほしくないという、僕の気持ちを察してくれたようだ。
 軽い昼食を済ませ出掛ける準備を整えた僕は、最後にパソコンの電源を入れてイーハトーブの掲示板をチェックしてみた。案の定二人からのメッセージが書き込まれている。
テーゼ
[静岡はいい天気らしいね。ハルト、結果を見えるところに求めようとするなよ。見える結果は本当にだすべく内部の結果への材料にすぎないんだからね]
ルビィ
[夕方 テーゼとイーハトーブにいるから 帰ってきたらログインしてよ]
 次にメールをチェックしてみる。期待通りここにもルビィからの言葉が届いていた。