[章]

『ハルトさんのご来園』
ハルト『ただいまっ!』
ルビィ『ハルト帰ってきたハルト どうだった?楽しんできた?』
テーゼ『お疲れハルト。俺たちの代表としてがんばってきてくれたかな』
 たかが運動会に参加するだけ。この二人だってそれ自体にたいした意味を持っていなかったはず。僕が適当に種目をがんばって近所の人達と少しでも話ができれば、社会に出るきっかけになるかもしれない。きっとそんな程度にしか考えていなかっただろう。
 しかし伝えるべき結果はそんな程度ではなかった。
テーゼ『そうしますと、いきなり選ばれたリレーで二人抜いて一位になったのかい?』
ハルト『そう!そのまま多比良からも逃げ切ったんだ』
ルビィ『あれ 私泣いてる 涙がキーボードのすきまに落ちちゃったけど大丈夫かな ハルトすごいよ えらかったね』
 僕のパソコンテーブルには清里で撮ったルビィとの写真と、テーゼがメールで送ってくれた画像、その二枚のプリントが写真立てに飾られている。僕はそれを見つめながらキーを叩いた。

 こうして遠くから僕を応援し喜んでくれる。今日の結果が少しでもそれぞれの意識にうまく変成してもらえればと思う。挑まなければ変化はない。そんな簡単なことが三人の前に大きく立ちはだかっている。僕たちはずっとその壁に背を向け安全なところで手をつなぎ輪を作っていた。それがただ逃げているだけだといわれればまったく反駁できないだろう。
 しかし無駄なことだとは決して思わない。遠回りかもしれないが正しい道だと信じている。まず僕がそれを証明したのではないだろうか。
 ルビィだって今朝のメールから自分をどうにか変えようと考えはじめているみたいだし、すべてがうまく回りはじめた気がする。あの旅行を機に僕の中でずっと沸きあがっていた期待が確信へとつながる手応えをしっかり感じていた。
 しばらくチャットをしているうちに慰労会のことが頭をよぎった。時計を見ると集合時間を過ぎてしまっている。両親はまだ帰ってこないようだから書き置きをしていこうかと思っていると、下の部屋で電話が鳴った。早く慰労会に来いという松木町の人か両親のどちらかだろう。
ハルト『電話だ、まってて』